大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和44年(ツ)32号 判決

債務の本旨に従つた弁済の提供がなされたか否かは、当該具体的事案に応じ、信義則に従つて、これを決すべきである。本件の場合、原審の確定したところによると、本件土地賃貸借契約においては賃料は毎月末日その分を支払う約であつたが、上告人において常に賃料の支払を遅滞しがちとなつたため、上告人としては、いつ上告人から賃料の提供がなされるか予想し難い状況にあつたところ、上告人は昭和四一年一月三日に昭和四〇年一二月分の賃料を、昭和四一年一月一七日に同月分及び前月分の賃料を夫々被上告人方に持参したが、右両日とも、上告人は、事前に連絡することなく、いきなり、被上告人方に赴いたのであり、しかも、被上告人方には同居の家族川合きん、川合敏明のいずれかが在宅していて、裏口は明いていたのに、上告人は、被上告人方の表口に鍵がかかつていることだけから、不在だと軽信し、そのまま帰宅してしまつたというのであるから、斯かる事実関係のもとでは、上告人が右両日に右賃料を持参した行為をもつて債務の本旨に従つた弁済の提供があつたとすることはできないとした原審の判断は、相当である。所論引用の判例は本件に適切でなく、以上と異る見解を主張する所論は採用することができない。

同二ないし四について。

原審の確定したところによれば、本件和解調書においては、上告人が毎月末日限り持参支払うべき賃料の支払を怠り二か月分以上に達したときは、被上告人は、何らの催告を要せず直ちに本件土地賃貸借契約を解除することができる旨定められていたところ、その後、上告人は賃料支払を滞りがちとなり、二か月から四か月位遅れることが常となつていた折柄、上告人が、昭和四〇年一二月から昭和四一年二月分迄の三か月分の賃料の支払を遅滞したので、被上告人は、昭和四一年三月二日、上告人に対して、翌三日到達の内容証明郵便をもつて、本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、一方上告人は、同月二日頃、二か月分の賃料を持参して被上告人方に赴き、右賃料の受領方を求めたところ、被上告人を代理する川合きんや被上告人本人から、その受領を拒絶されたので、同月三日受理をもつて、昭和四〇年一二月分以降昭和四一年三月分までの四か月分の賃料合計金九、六〇〇円を東京法務局に供託したというのである。右認定事実によれば、上告人が前記二か月分の賃料を提供したのは被上告人の前記契約解除の内容証明郵便の到達の前日であるけれども、上告人のした右二か月分の賃料の提供をもつては本件の場合について債務の本旨に従つた弁済の提供とはいい難く、従つて、又、上告人のした前記供託は適法なものとはいえないから、この供託と右契約解除の内容証明郵便到達の時間的前後を認定するまでもなく被上告人のした解除の意思表示についてその効力発生を認めた原判決は相当であつて、原判決に所論二ないし四にいう各違法は認められない。論旨はすべて採用できない。

(岸上 横地 田中)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!